商店会員インタビュー vol.8 「暮らし研究室 おきしぺたるむ」

三和・緑道商店会員インタビューの8回目は、8条通8丁目にある「暮らし研究室 おきしぺたるむ」。

「子どももおとなも みんなでつくる みんなの居場所」として様々な団体や個人が活動を行なっているスペースです。

今回は、代表の渉里美香さんにお話しを伺いました。



―まずは、おきしぺたるむ発足のお話を聞かせて下さい。


高倉晴美さんと岡本千晴さん(通称:ちはさん)のお二方が共同代表という形で、2022年に発足しました。元々一般住宅として使われていた物件を、民間の公民館のような場所にしようということでスタートしたんです。

私自身は立ち上げ当初からの参加ではないんですが、個人的に「おさがりを循環させるような場所を作りたい」という漠然とした思いは持っていたんです。ただ、現実問題として物を保管する場所がないので個人ではできないかなと思っていたことがここで叶えられるなと。そこで「つなぐいち」という活動を提案して会員になったというのが、私の参加経緯です。

それから私も運営に関わって、少しずつ参加する団体も増えていったんですが、実はそれらをどうとりまとめるかといったことや、場所を使う上での規約や約束事をどうするかといったことを考えるのが大変だった時期があって。みなさんそれぞれの想いを持って活動されているので、どうしてもぶつかったり分かり合えなかったりして、険悪な空気が流れてしまったこともあったんです。でもそのうち、同じ場を共有するものとしてどう付き合っていくのがいいのか、時間をかけて程よい距離感が見つかって、一緒に空間を作っていくということが段々と軌道に乗ってきたという感じですね。

代表の一人だったちはさんは色々な活動をされている方なんですけど、子どもの居場所づくりを横でつなぐ「旭川おとな食堂」という地域の中間支援の活動の規模がすごく大きくなって、そちらの方に力を注ぎたいというお話になって。私としてもその思いを応援したかったし、そんな中で「代表をやらない?」というお話しをいただいたので、2023年の11月に私が代表になって、代表の一人だった晴美さんが会計を担うという現在の体制になりました。


―「おきしぺたるむ」をわかりやすく説明すると、1つの空間に異なる様々な団体が所属している1つのチームといったところでしょうか。


そうですね。最初「おきしぺたるむって何?」という疑問に答えられる適当な言葉がなかなか見つからなくて。日替わりでいろんな団体が居場所作りをしているということを表現したいということを考えた時に、「ヒガワリ居場所」という言葉を思いついて、現在はそれを使っています。



―おきしぺたるむで活動している団体について教えて下さい。


まず「HAL」という団体があって、これは元々中高生向けだったんですが、現在は子どもも大人も一緒に作っている居場所という感じです。活動として何をするというのは特に決まっていないけれど、ゲームをしていたり料理をしていたりする中で、その子たちの作っている雰囲気が出来ているという感じですね。

晴美さんのやっている「暮らし研究部」という活動は、放課後や長期休み中といった学校に行っていない時間帯の子どもたちの居場所になるようにという思いで行われています。元々晴美さんが食に関する活動をずっと続けられている方で、フードバンクからたくさん頂いた強力粉を使って子どもたちと一緒にドーナツを作って食べたりしています。

代表をされていたちはさんもできる範囲で「ヨル寺子屋」という活動を続けて下さっていますね。大体月に1回くらい、「夜型の子育てサロン」という形で開催されています。出産後育休期間中なんかで日中時間があると、子育て支援センター等に出かけて同じくらいの月齢のお子さんを持つ方と交流することができるけど、仕事に復帰するとなかなかそういった時間って取れないじゃないですか。夜に開いている子育て支援センターならそういう機会を継続できるかもしれないけど、現状ないのでなかなか難しいと。そういった経緯でスタートした活動です。毎回カレーを作ってみんなで食べるんですけど、他にも紙芝居を読んだり、季節ごとのイベントに出かけることもあるようです。そこに実習中の学生さんだとかボランティア活動に興味のある教育大生さん等が関わってくれたりして、活動が続いているという感じですね。

私がつい最近始めた活動で「こども食堂Doキッチン」というものもあって、こちらは月に1回日曜日の夜に行なっています。この界隈の人たちが仕事終わりに寄りやすい子ども食堂を作りたいという気持ちがあって始めました。私自身別なところでも子ども食堂を行なっているんですが、そちらは50~60人規模の大所帯なので結構事前にしっかりと計画を立てなければならないんですね。なのでこちらでは、「今日は誰か来るかな?食材はこのくらいあれば足りるかな」くらいの小規模でゆるく活動したいなという思いがありますね。初回はたまたまFacebookから知って下さった、4人のお子さんがいる方が来てくれたんです。運営やボランティアの大人たちもいたんですが、やっぱり小さな子どもが4人って大変ですよね。だから私たちもできる範囲でその子たちに声をかけたり見守ったりしながら、みんなでにぎやかにご飯を食べたんです。こういった時間を過ごせる場を作りたいというのが叶ったなと思いましたね。



―発足から2年弱が経ちましたが、発足当初と比べて現在はどうですか?


最初の頃と比べると、それぞれの活動が整ってきたなと感じています。

先程話した以外にも、現在は「チャチャチャワールド」という子育て支援をメインとした活動が火曜日に行われていて、4月からは週2回でフリースクールも始まる予定です。

活動団体が増えて、今やっと全曜日が埋まったところなんです。


―軸は変わらずとも活動の幅が徐々に広がっているといった感じですね。


そうですね、広がっているし根付いてきたなと感じています。

だからこそ、それぞれの活動をいかに安定して維持していけるかが大事になりますよね。やっぱり決まった場所がないと途端に活動って消えちゃったりするので、安定して運営していくために何ができるかということは常に話し合っています。シビアな話ですが、家賃などの経費もかかりますし、各団体が安定して活動することが収入にもつながるので…。だからこそ、やりがい搾取にだけはならないように、活動してくれるみんなが心を削がないように続けていくためにできることを、常々考えています。

もちろん活動する側だけでなく、来て下さる方にとっても決まった場所があることが大事だと思っていて。「この曜日・時間は開いているはずだから行ってみよう」と思える安心感を出せるように、維持していきたいですね。


―緑道界隈に場所を決めたきっかけはあったんですか?


きっかけ自体は、当初代表をされていた晴美さんがこの建物の大家さんと知り合いだったとか、そんな感じじゃなかったかな。

でも私自身もこの緑道界隈の良さをよく知っているからこそ、ここでおきしぺたるむの活動を続けようと思っているんです。

ただ、緑道は居心地が良すぎて、ここに団体を構えている身としては「用もないのにダラダラしていてはいけないな」と感じてしまうこともあるんですよ。だから「何もなくてもいていい場所」をここだという感じにしたいですね。私たちもここで仕事をしたり、コワーキングスペースとして使ったりしていますし。生活の中でどうしても発生してくるのが「食事」の時間だと思うので、ここで食にまつわる活動が充実しているのはいいことだなと思っています。


―渉里さん自身も緑道のことを元々ご存知だったんですね。


私自身保育士をしていたこともあって絵本が大好きだったので、こども冨貴堂にはよく通っていました。そのうち私も結婚して子どもが生まれたりする中でギャラリープルプルができたり、まちなか文化小屋ができたりと、緑道がどんどん盛り上がっていくのを目の当たりにして。イベントが開催される時には出店者として関わらせていただいたりして、緑道がもっともっと居心地の良い場所になるようなお手伝いがしたいという気持ちがずっとあるんです。

実は私、かつてこの場所に気持ちを救ってもらったという恩があるんですよ。保育士だから子育てにおいて悩むことなんかないと高を括っていたんですが、いざ子どもが生まれてみるとそうはいかなくて。うちの子どもは妊娠7ヶ月の時に生まれて、産休に入る間もなく即出産となってしまって気持ちの整理が出来なかったんです。3ヶ月くらいは保育器の中で育って、その後退院して本格的な子育てがスタートするんですけど、自分のせいで子どもを早く産んでしまったという申し訳ない気持ちや「ちゃんとした母親にならないと」という思いで、肩に力が入ってしまっていて。そのうえ思ったような出産が出来なかったという気持ちもどう消化していいかわからなかったんですね。実家の母も世代的には頑張るのが当たり前というか、一緒に住んでいる夫や姑が育児に協力してくれない中でも子どもを育て上げた人なので、もちろん私が困っていたら手を貸してくれたり手伝ってはくれましたけど、きっと100%私の気持ちは理解していなかったんじゃないかな。逆にそんな母を見ていて「どうして私はお母さんみたいにできないんだろう」と、また辛くなってしまったり。

幸いうちの娘は小さく生まれた割に丈夫だったので、今にして思えばそこまで神経質になることもなかったんですが、風邪でもひいたら即入院となってしまうからと、家に閉じこもって過ごしていたんです。でもやっぱり「外に出たい!誰かと話したい!」となりまして。赤ちゃんがいる以上人がいっぱいいるようなところには行けないし…と考えたときに、頭に浮かんだのが「こども冨貴堂」だったんです。やっと出かけられた喜びと温かく声をかけてもらえた、あの時の心救われた感覚は一生忘れられませんね。


―その時の記憶や経験が、現在の活動にもつながっているんですね。


そうですね。活動の根っこの部分には「あの時辛かった自分を救ってあげたい」という気持ちがブレずにあって、それを心の支えにして活動しているような気がしています。それが誰かのために役立っていたら、あの時の辛い思いが報われるんじゃないかなと思えるんですよね。


―最後に、今後の展望についてお聞かせ下さい。


活動していく上ではもちろんお金というものも大事なのですが、人とのつながりとか人の力って何よりの宝だと思っているので、関わってくれる人たちの「何かやりたい」「協力したい」という優しい気持ちを十分に生かせる場にしていきたいなと思っています。優しさってきっと誰もが持っている気持ちなんですけど、発揮できる場所がないとその人の中にずっと留まってしまう。なのでそういった人たちに向けて私たちのことをうまく発信して協力・参加してくれる人たちをもっと増やしていきたいなと考えているんですが…何せ私たち発信することが苦手で(笑)。

ただ、SNSを使ってむやみやたらと人を増やせばいいかと言われるとそんなこともないと思っているんです。中には私利私欲で動く人がいたり、困りごとを持ち込んでくる人もいないとは限らないですよね。ここは子どもたちも利用する場所なので、変な影響があっては困りますから、子どもたちにとってそばにいて安心できる大人たちに集まってほしいなと思っています。

「ここがどういう場所なのかな?いつ開いているのかな?」と思ってくれる人のためにある程度の発信はするけれど、実際ここに足を運んで一緒に活動したり活動に参加したりっていう人はちゃんと知り合った関係がある上で増えていくのがベストなのかなと。ここでの活動やイベントに参加して喜んでもらえるのも嬉しいけれど、そこからその人や周囲の人たちにここを知ってもらって、利用する人も協力してくれる人も増えていったら嬉しいですね。



[インタビュアーからひとこと]

「子どもたちや子育て世帯の方たちの居場所」について、ニュース等で取り上げられることもあり急速に世の中の関心が高まっている今、緑道にこのような場所ができたことは大きな財産だなと感じています。

私の子供たちも時々遊びに行かせていただいているご縁もあり、元々身近な存在に感じていたのですが、今回じっくりとお話を聞いて、おきしぺたるむの活動の意義だけでなく続けていく意味や難しさについても考えるきっかけになりました(読んで下さっているみなさまもそう感じていただけていたら嬉しいです…!)。

利用する人たちにとっても、活動する人たちにとっても、おきしぺたるむという存在が永く続くことを願っています。




インタビュアー 知本有里(MaitoParta)

札幌市出身。23歳の時就職をきっかけに旭川へ。

現在緑道にて、北欧雑貨店「MaitoParta」を営む。

店舗の2階で暮らす、名実ともに緑道の住人。


三和・緑道商店会

北海道旭川市7条緑道を中心とする三和・緑道商店会は、ここで生きる「人」のくらしを第一に考え、「まちと人」「人と人」「自然と人」をつなぐことを目的として活動しています。

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